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山口地方裁判所 昭和29年(ヨ)35号 決定

申請人 全日本港湾労働組合関門支部

被申請人 元山運輸商事株式会社

主文

被申請人会社は申請人組合所属の元山分会員中別紙表示記載の山下勝義外二十四名の組合員に対し被申請人会社が昭和二十八年十一月十八日附申請外全日本海員組合との間に締結した労働協約第四条及び第五条を理由として解雇してはならない。

(注、保証金五万円)

(裁判官 河辺義一 榧橋茂夫 宮崎富哉)

(別紙省略)

【参考資料】

仮処分命令申請

申請人 全日本港湾労働組合関門支部

被申請人 元山運輸商事株式会社

申請の趣旨

被申請人は申請人組合所属の元山分会員中別紙山下勝義外二十四名の者に対し、被申請人が昭和二十八年十一月十八日附全日本海員組合との間に締結した労働協約に基く解雇その他の不利益処分は申請人被申請人等間の労働協約等無効確認事件の判決確定に至るまでこれを為すべからず。

との裁判を求める。

申請の理由

一、被申請人は山口県宇部市大字中宇部字沖の山二千七十番地の十六に本店をおき、海運業等を営むことを目的とする株式会社である。

申請人は門司市西海岸通り二番地の一に事務所をおき、主として港湾労働者を組合員として居り、被申請人会社の従業員の一部は申請人組合に加入して全日本港湾労働組合関門支部元山分会を結成している。

二、被申請人会社の従業員中一部の者は従来より全日本海員組合に加入しているが、機帆船、艀等小型船舶乗組員等は如何なる組合にも加入せず、又自らも組合を結成せず所謂未組織のままであつた、ところでこれ等未組織の従業員と被申請人会社との間には賃金協定労働協定はもとより就業規則すらなき状態であつた。そこでこれ等の従業員中五十六名の者は昭和二十八年八月十六日申請人組合に加入し、その頃全日本港湾労働組合関門支部元山分会が結成された。

三、而して昭和二十八年八月二十四日全日本港湾労働組合関門支部代表は被申請人会社に対し労働協約締結に関する申入をなし、爾来右協約の締結賃上等の案件にて団体交渉、ストライキ等を重ねて来ているが被申請人会社に誠意なく、紛争を続けて来ている。

四、ところが被申請人は被申請人と全日本海員組合との間にひそかに締結した昭和二十八年十一月十八日附の労働協約第四条(船員はすべて組合の組合員とし組合員でなければ雇傭しない)第五条(この協約は会社に雇傭されている船員及び予備員に適用する)を根拠として昭和二十九年三月三十一日附「通告書」と題する書面を以つて右元山分会所属の山下義勝外二十四名の者に対し同年四月十五日までに申請人組合を脱退して全日本海員組合に加入せざる場合は解雇する旨並に右加入の意思の有無を右十五日までに回答せよと通告して来た。

五、そもそも従業員が何れの労働組合に加入しようとそれは当該労働者の全く自由な意思によるべきものであつて、使用者は労働者が労働組合員であること、又は労働組合から脱退することを雇傭条件としてはならないことは労働組合法の明定するところである。然るに被申請人は右山下義勝等が申請人組合を脱退して全日本海員組合に加入することを雇傭の継続条件として前記通告をなして来たものであり明らかに不当労働行為といわなければならない。而して被申請人は前記協約第四条の謂ふ「クローズドシヨツプ」の効力は同協約第五条により第三者である申請人所属の分会員にまで及ぶものと見解し前示の如く通告書の根拠としているが、協約が所謂債権的効力を有し締結の当事者のみを拘束するものであることは云うを俟たない処であり、所謂物権的効力を有すると見るべき正当な理由もない。

六、以上の通り被申請人の前記通告は不当であり、申請人としては被申請人より斯る理不尽な不当労働行為を繰返されてはその損害も至大なので此の際申請人は該協約が申請人所属の元山分会員に対し効力を及ぼさないことの確認を求むる本訴を提起すべく準備しているが同分会員等は本月十五日までに通告書の回答をすべく迫られているので取敢えず本申請を為す次第である。

疎明方法〈省略〉

昭和二十九年四月八日

申請人代理人 塚田守男

山口地方裁判所民事部 御中

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